俳句集・短歌集
自費出版こぼれ話

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*下記は文章工房すばる(http://www.e-subaru.jp)の20年間の実体験に依るものです。

さまざまな人々それぞれの人生

 検察のトップを極められた方、過去を捨てた大阪あいりん地区の日雇い労働の方、経済的には何不自由ない裕福な方、本当につましく年金で暮らされているご高齢の方、波乱万丈の人生を歩んでこられた方、比較的平坦な道を辿られた方、と、当房で俳句集・短歌集・川柳句集を自費出版された方々の人生もまちまちです。
  人生の大半を病と闘ってこられた方、車椅子生活の方や、悪性腫瘍の再発でご自分の短歌集の完成を一日も早くと、待っていた方もいらっしゃいました。今も、心を病んでいらっしゃる方もいます。さまざまな方々の自費出版された、俳句集・短歌集・川柳集はそのまま、それぞれの人生を映し出す自分史になっています。

キラリと光る作品が
 自費出版された作品集は、専門家の立場から見れば、完成度の高い作品の粒が揃った方、失礼ながらそれなりの方、とこれもまちまちかも知れません。ただ一つ言えることは、例えば100句(首)の中には、その方でなければ作れなかったであろうと思われる、職業作家に勝るとも劣らぬキラリと光る作品が、必ず幾つか見つかります。ここに、自費出版の意義があると思われます。 「みんなちがって、みんないい」(金子みすず)のではないでしょうか?

短歌・俳句で綴る戦時下の青春
 若き衛生兵としての出征から、戦後の細菌検査技官としての自分史を短歌集に綴り、5集予定中の第4集まで自費出版されたところで、帰らぬ旅に発たれた方がいます。 出征の経験を、短歌や俳句で綴られる方は、沢山いらっしゃいます。 もっとも、その戦後も早足に遙か彼方へ遠ざかりつつありますが…。 
 短詩形という少ない文字数のため、かえってその戦時体験の一瞬が鮮明に浮き彫りされる場合もあります。

征き死なん陽にきらきらと春の海
 海軍飛行予備学生として、幾度かの特攻出撃の機会を運命のいたずらで免れ、後年を公認会計士として活躍され、数年前に八十余歳の天寿を全うされたG・H氏の句です。氏は会計学関係の著書も百冊程出版され、大学の教壇にも立たれた方でした。氏は青春の二年間を、土浦、筑波、松山、博多、元山(旧朝鮮)等の航空隊の戦闘機隊基地に訓練生、教官或いは実戦隊員として転勤され、終戦を谷田部海軍航空隊(千葉県)で迎え、九死に一生を得ました。
 氏の体験は晩年に「征き死なん春の海 ー海軍飛行予備学生の日記ー 」(税務経理協会刊)という著書にされ、筆者はその1部を寄贈されました。氏は、それとは別に、上記の句を含むご自身の飛行予備学生としての生死のギリギリの際にあった二年間の俳句を纏めて、当房で少部数ですが自費出版されました。
 それと前後して、氏の趣味であった海外旅行の際の紀行吟を数回、やはり当房で俳句集として自費出版して頂きました。晩年には、更にお手許の句稿の全てを整理し数回に分けて句集を自費出版して頂き、最後にはおそらく恩師に当る方の遺句集まで纏められ自費出版して、静かに旅立って行かれました。氏はお手紙で「例え拙い句でも、自分が詠んだものを抽斗の隅に置いたままで逝くのは不憫なので、整理して置くだけ」というような趣旨を述べていらっしゃいました。
 氏の上記の「征き死なん春の海」は、虚飾のない日記として、氏の純粋なお人柄を偲ばせ、又この時期に先急ぐように散っていった氏の弟や同期の桜の心情を偲ばせる好著で、この小文を記すに当って涙と共に読み返しました。練習生として後には教官としての猛烈な飛行訓練の寸暇にも、膨大な文学書を読み、懸命に生きることが即ち死に直進せざるを得ないという矛盾に、苦悩する氏の青春像が浮き彫りにされています。又克明に記された日記の端々に、本当に可憐とも思える、秘めた抑えた恋心が、数多くの俳句に託されています。
   「ふたりゆくふたりの夏野昏れはじむ」

ペアーの俳句集
 小判の句集の最少部数の自費出版ですが、同じ村の80才を越えた独り身同士の茶飲み友達との見開き対の句集を約1年の間隔で4回出版された方がいらっしゃいました。(最後に出されてから随分年月が経っているので、もう旅立たれたのかも知れませんが…)
 一冊の前半がご主人の俳句集で、後半が奥様の短歌集とか、或いはご主人が短歌で奥様が俳句という例、も少なからずあります。又、奥様が俳句集を出されて1年を置かずにご主人の俳句集も自費出版されたと言うような例も珍しくありません。ご夫婦の趣味が同じ、或いは似ているのも和やかな暮らしぶりを偲ばせます。

逆縁の哀しみ
 何とも胸が傷むのは、御子息や娘さんに先に逝かれたいわゆる逆縁です。その哀しみを乗り越え、俳句に或いは短歌に昇華していらっしゃる方々も少なくありません。抑えた感情がかえって読者の胸にそくそくと伝わってきます。
 下記の前の句は、38歳のご長子を亡くされた翌年に自費出版された、作者の第一俳句集に記載の句、後の句は、更に十年後に自費出版された第二俳句集に記載された句です。

 「逆縁の身のをきどころ冬畳」  「逝きし子の数で止まりぬ年の豆」

(仲瀬美智子)  

卒寿を越えた弟子のため
 93歳という高齢の婦人のお弟子さん(但し、電話のお声はせいぜい60歳代位にしか聞こえず、お元気そうで驚かされました)の為に、例え20〜30部という少部数の俳句集で良いから遺して置くようにと、恐らく少し年下の先生みずから当房の資料を取り寄せられて、選句や序文の労をとられて自費出版に至ったという、本当に師弟愛にあふれた、心温まる例もあります。しかも、その俳句集には、さすがに完成度の高い俳句が並んでいて、師の力入れが納得できました。こうした仕事をさせて頂くのは、実にさわやかで気持の良いものです。
 師の献身的な協力がなければ、日の目を見なかっただろうと想われる俳句集・短歌集は数多くあります。

俳句集・短歌集を手をする直前に
 俳句集の出版の1週間ほど前に倒れられ意識不明になってしまわれた方(後に一時恢復されました)、さらには、短歌集を自費出版発注後10日で旅立たれた方もいらっしゃいます。後者の場合は、預かっていた前金の範囲に部数を減らし短歌集を作り、ご霊前に供えられたらと、一応お勧めしましたが、(義理の?)娘さんの強い要望により解約・返金しました。注文された故人のためにも、もう少し強く押すことも考えたのですが、(出来上がった短歌集を実際受け取る方が)望まれぬ歌集を自費出版するのは、当方も気が進まなかったこともあり、断念せざるを得ませんでした。先方にも、何か事情があったのでしょう。
 もちろんこんな淋しいのは例外で、お元気な内に古希・喜寿・傘寿の祝い等に、お子さん達が代わって自費出版して贈られ、晩年に於ける最大の記念となったと喜ばれてい方々が数多くいらっしゃいまます。

娘達に背を押されて
 「二人の娘達のたっての勧めで、重い腰を上げ短歌集の自費出版に踏み切りました。でも、出して本当に良かった」と「あとがき」に記した方がいらっしゃいます。御子息や娘さんが母や父の、弟や妹が高齢の姉の俳句集・短歌集の自費出版の後押しをされている例は、枚挙にいとまがありません。
 経済的な応援に限らず、選句の為の入選句の整理や清書(或いはパソコン入力)等の労力の提供、近親者の温かい励ましの言葉、資料の取り寄せだけでも、自費出版に踏み切るための、大きなきっかけになるのではないでしょうか。

忘れないこと、想い出すことが最高の供養
 亡くなられた作者を偲ぶよすがとして、遺句集・遺歌集を近親者、友人、後輩、弟子に当る方等が自費出版されることも、本当に数多くあります。ご主人の遺歌集を自費出版された奥様が「私にとってだけでなく、子供や孫達にとっても、何時までも身近な存在として主人を忘れない、想い出す一助になると思う。それが最高の供養だと思います」と語られました。全く、その通りだと思います。

枯れぬ詩心
 最近、続けて米寿、95歳という二人の男性の短歌集・俳句集を自費出版のお手伝いをさせて頂きました。お二人とも(お電話ですが)お声が若く頭の回転も明晰で、しっかりした文字を書いていらっしゃいました。何より今も現役で短歌・俳句の投稿に励んでいらっしゃるという、いまだに枯れぬ詩心に感銘を受けました。同じ長生きをするのであれば、こうありたいものだと思いました。

若き日の父の涙、娘時代の母のセピア色の恋
(本人が既に亡くなったことを知らせる賀状の返礼で、)御子息から、「今となると遺された短歌集が形見となってしまったが、子供の私達が知らない、でもなぜか懐かしい父を発見しました」という趣旨の感謝の言葉を頂いたこともあります。父や母の青春時代の哀歓などは、自費出版で遺された俳句集・短歌集で初めて知る場合が多いようです。
  

逢ったことのない懐かしい人びと
 「先ほど届きました」ご自身の自費出版した俳句集を手にした喜びで、受話器の向うの声がまるで若い娘さんのように弾んで響いていました。二年程して、やはり御家族からのお葉書に、既に亡くなられたこと、俳句集を遺して貰って良かったと、記されていました。電話のあの弾んだ声がよみがえって来ました。
 その方は、自分の付けた題名で随分迷っていらっしゃたので、今の題名の前に「遠−」と付けられたらどうですか?とアドバイスをして、喜んで採って頂きました(もちろん普段は、作品の内容に係わる口出しは原則的にしません)。若くして離れた故郷を偲ぶ俳句が数多く、印象的でしたので…。
 お顔を拝見したこともなく、作品と手紙と、せいぜいお電話のお声だけの出会いですが、永いお付き合いがあったような懐かしい人びとが数多くいます。

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